その二
静岡県 下田市 蓮台寺にある河津鉱山(蓮台寺鉱山)は浅熱水金銀鉱床の鉱山で、金、銀、銅、亜鉛、鉛、マンガン、テルルと、多種の金属鉱物が産出したため、鉱物マニアには大変興味深い産地となっている。河津鉱山の歴史は古く、1596年には開発されていたようである。その後1915年に現在の日本鉱業の前身である久原鉱業が買収し稼業したが、1959年にその歴史を閉じた。鉱床は北東にマンガンに富む掛橋樋、藤ヶ坑樋、中央部には銅に富んだ猿喰樋、鶴ヶ峰樋、西南には金銀テルルに富んだ檜沢樋、大沢樋が分布しており、多様な鉱化作用がみられる。大沢の一部には試掘跡が残され、開発されずに手つかずのままになった金銀テルル鉱脈も残されており、その露頭の末端部分を現在でも観察する事が出来る。産出鉱物であるが、マンガンに富んだ鉱床からは、ばら輝石、菱マンガン鉱、イネス石が多産し、高品位鉱として軟マンガン鉱などが観察できる。特にイネス石はこれに共なう輝銀鉱のため、鉱石としても用いられていたようである。銅鉱床の酸化帯からは、藍銅鉱、ブロシャン銅鉱、炭酸青針銅鉱などのカラフルな二次鉱物が多く見られる。これらは四面銅鉱や輝銅鉱が変質し生成されたようである。テルル金銀鉱脈である檜沢樋、大沢樋では、陶器状石英中に自然テルル、テルル石、テルル蒼鉛鉱、河津鉱、ウィチヘン石、それに共なうアップル・グリーンのアルミニウム燐酸塩鉱物、バリッシャー石などが産出し、多くのマニアが採集に訪れていた。鉱山周辺には多くのズリが残されていたが、最近では宅地開発などのため、その規模は随分と小さくなってしまい、さらにマニアによる極端な乱獲が問題視され、採集はかなり困難な状況となっている。特筆すべきは、既に水没してしまった猿喰坑から産出した、亜テルル酸塩の二次鉱物、手稲石や欽一石など日本産新鉱物が産出した事であるが、閉山久しい現在では既に絶産と考えられており、ゼーマン石やスピロフ石等とともに、今では河津鉱山産の幻の鉱物となっている。
Tellurite : テルル石
黄色く鉱染している陶器状石英中に、光輝の強い鮮黄色の結晶で産出する酸化テルルの鉱物、テルル石。自然テルルを共なって産出する。
Sample-A
Sample-A
←36mm→
←20mm→
Sample-B
Sample-B
←21mm→
←21mm→
上の標本の拡大写真(x20)
上の標本の拡大写真(x20)
Native Tellurium : 自然テルル
河津鉱山の檜沢、大沢は、テルル金銀鉱の産出で知られており、写真のようなテルルにより黄色く鉱染された陶器状石英中に、銀白色の自然テルルが産出する。結晶は非常に稀であるが、六方晶系で微小な水晶形をしているものがある。しばしば酸化テルルのテルル石やパラテルル石を共なって産出する。自然金を共なっている事もある。
53mm x35mm x 19mm
←37mm→
←18mm→
←18mm→
Hessite / ヘッス鉱
銀とテルルの鉱物、ヘッス鉱。写真の標本上部に見える石英中の黒色脈部分に濃集している。産出は稀。
←15mm→
←15mm→
Kawazulite : 河津鉱
ここ河津鉱山で発見されたビスマス、テルルにセレンを含む稀産鉱物の河津鉱。銀黒色、金属光沢の微小な箔状で産出し、テルル蒼鉛鉱にも似た外見をしている。
河津鉱
河津鉱
33mm x 32mm x 28mm
←34mm→
Gold : 自然金
既に水没してしまった、猿喰坑より産出した自然金。黄鉄鉱から変質した針鉄鉱部分に微小な金が付いている。
Wittichenite : ウィチヘン鉱
銅とビスマスの硫化鉱物。本鉱の空隙にはアップルグリーンの燐酸塩鉱物、バリッシャー石を共なっている場合がある。
30mm x 25mm x 22mm
x20
Variscite : バリッシャー石
アップルグリーンをした葡萄状集合体で産出するアルミニウム燐酸塩の鉱物、バリッシャー石。主にウィチヘン鉱の空隙に産出し、時には自然金を共なっている事がある。
←28mm→
←28mm→
x20
x20
60mm x 33mm x 19mm
←20mm→
x20
x20
Hemusite : ヘムス鉱
銅、錫、モリブデンの硫化鉱物、ヘムス鉱。陶器状石英中に黒色脈で産出し、他の鉱物をあまり共なわない。
45mm x 40 mm x 35mm
←25mm→
Bornite : 斑銅鉱
掛橋坑から産出した、銅と鉄の硫化鉱物、斑銅鉱。特徴的な蜥蜴箔により、青、紫に色付いている。
蛍光灯下で撮影したもの。
ハロゲン灯下で撮影したもの。
←34mm→
←34mm→
Covelline : 銅藍 (コベリン)
石英の空隙に、粉状、板状で産出する、銅の硫化鉱物、コベリン。一見黒色に見えるが、ルーペで観察するとメタリックな藍色であるのがわかる。黄銅鉱の表面が風化して藍色の皮膜ができているものもあるため、判別には注意が必要である。
51mm x 41mm x 38mm
←30mm→
Chalcopyrite: 黄銅鉱
石英中に脈をなす銅の硫化鉱物、黄銅鉱。
68mm x 62mm x 47mm
←42mm→
Pyrolusite: 軟マンガン鉱
二酸化マンガンの代表的な鉱物、軟マンガン鉱。普通は塊状で産出するが、この標本は針状結晶が集合し仏頭状をなしている。ビロードのような外観が魅力的な標本となっている。
←48mm→
←32mm→
参考資料
静岡県 河津鉱山 蓮台寺鉱床と産出鉱物について・大石 徹(坂上澄夫教授退官記念論文集)...1997
静岡県 下田市 河津鉱山の近況・池田 重夫 (上・下)
鉱物採集フィールドガイド・草下英明(草思社)...1982
楽しい鉱物図鑑・堀 秀道(草思社)...1992.11
なりなりのピクニック(HP)