茂倉沢鉱山は群馬県 桐生市 菱町にあり、渡良瀬川の支流である茂倉沢の上流に位置する層状マンガン鉱床の鉱山です。採掘時の詳細などは不明ですが、バナジウムを含む稀産鉱物、長島石、鈴木石、ロスコー雲母(通称V3)などが、沢のズリ石から採集する事ができるため、マニアには大変有名な鉱山跡となっています。特に長島石は、他の産地ではお目にかかる事の出来ない貴重な鉱物で、鈴木石と共にこの地の目玉となっています。これらの鉱物は、石英などを含んだ低品位の粗粒ばら輝石中にルーペサイズで入っており、沢沿いに埋まっている、そのような鉱石を掘り出し、丹念に叩いていくと見つける事ができます。しかし、多くのマニアが訪れているため、有望な鉱石は少なく、現在ではかなりの根気と努力が必要だと思います。主要鉱石はハウスマン鉱で、このような高品位の鉱石中からは、緑マンガン鉱が見つかる事もあります。2005年に入り、久しぶりにこの産地を訪れてみたので、その近況と成果を報告し、過去の採集品やその他で入手した茂倉沢産の鉱物をまとめてみました。
左の写真のような低品位のばら輝石中から、長島石、鈴木石などが産出します。しかし、このような有望な鉱石で割られていないものを探すのは一苦労で、最近ではますます努力が必要となっている感じです。しかし、大きめのこのような鉱石を掘り出し、長島石などが発見できた場合、同じ石の何カ所にも見出される事があります。運やツキもおおいに関係してくるでしょう。ちなみに写真のばら輝石中からは、微小なロスコー雲母が見つかっただけで、長島石、鈴木石は入っていませんでした。
Nagashimalite : 長島石
1978年頃、鈴木石とともにこの地で発見された新鉱物、長島石です。低品位の粗粒ばら輝石中に、濃緑黒色の板柱状及び針状結晶で産出する、バリウム、バナジウム、チタン、ホウ素、塩素を含む、かなり特殊な鉱物です。一見黒色ですが、透過光では緑色が確認できます。一つ見つかると、同じ石にいくつも付いている事があり、鈴木石よりは採集できる可能性が高いと思いました。
Nagashimalite : Sample-a (20x) ⇄3.5mm
Nagashimalite : Sample-b (20x) ⇄5mm
Suzukiite : 鈴木石
岩手県 田野畑鉱山産とともに、この地、茂倉沢鉱山でも発見された日本産新鉱物、鈴木石です。バリウムとバナジウムの珪酸塩鉱物で、美しいエメラルドグリーンをしたガラス光沢の微小な結晶で、石英を含んだ低品位の粗粒ばら輝石中に産出します。かつてはセンチ級が産出した事もあるようですが、今では、肉眼で見えるか見えないかというものが稀に見つかる程度です。しかし、まだ埋もれている鉱石がある可能性もあり、コツコツと地道な採集を重ねれば、センチ級の採集も夢ではないかも知れません。いずれにしても、ここ数回の訪山での印象は、長島石よりさらに採集が難しいと感じました。(写真の2点はどちらも2004年の採集品です。)
Suzukiite : Sample-a (20x) ⇄3mm
Suzukiite : Sample-b (20x) ⇄4mm
Roscoelite : ロスコー雲母
バナジウムを含んだ雲母で、この地のV3と呼ばれるものの一つ、ロスコー雲母です。微小なものは鮮やかな緑色をしているものがあり、一見鈴木石と見間違うようなものもあります。やはり低品位の鉱石中に産出しますが、この標本は、某鉱物マニアから採集品を分けていただいたもので、1cmを越える集合体となっています。最近の産出品では非常に良品で、ロスコー雲母といえども、このようなサイズのものが見つかるのであれば、鈴木、長島のセンチ級も夢ではないと思ってしまうのですが.... 今だに現地では、お目にかかる事ができていません。尚、茂倉沢産のものは、バリウム含有量多いという事です。
⇄ 22mm
⇄ 10mm
Manganosite : 緑マンガン鉱
ハウスマン鉱などの高品位の鉱石を割っていくと、鮮緑色の美しい緑マンガン鉱が現れる事があります。しかし、この鉱物は空気にふれるとすぐに酸化が始まり、短い時間で褪色し、二酸化マンガン鉱に変化してしまいます。写真の標本は、人頭大のハウスマン鉱を割り出し、出て来た物で、採集当日の帰宅後すぐに、透明マニキュアを塗り、酸化を押さえたものを撮影しました。この時点で既に、採集直後の鮮やかさはだいぶ失われている感じです。
写真の標本は、ばら輝石中にスポット状に存在するハウスマン鉱から産出した、鮮緑色、皮膜状の緑マンガン鉱。表面は酸化防止のため、透明マニキュアを塗布して撮影した。
Size....53mm x 44mm x 23mm
⇄ 29mm
Tennantite : 砒四面銅鉱
ばら輝石を割っていくと、写真のような銀白色、金属光沢の砒四面銅鉱がしばしば観察できます。1、2mmの微小な結晶ですが、ルーペなどで観察すると、本鉱の特徴的な結晶面を見る事ができます。同じような産状で閃亜鉛鉱も産出しますが、こちらは劈開が明確なため、区別する事ができます。
20x
その他の産出鉱物
Pyrite : 黄鉄鉱
Azurite with Malachite : 藍銅鉱 / 孔雀石
⇄ 24mm
⇄ 30mm
堅いチャート質の鉱石を割ると、中から写真のようなシャープな黄鉄鉱の立方体結晶が、3、4mmの微小なサイズで姿を現します。褐色の母岩に金色の結晶が映えるため、薄暗い現地でも良く目立ちます。 ズリからは、わずかですが、藍銅鉱、孔雀石といった銅の二次鉱物も産出します。四面銅鉱が比較的多く見られる事から、それらの銅鉱物の分解により、生成されたものと考えられます。
参考資料・文献
日本の新鉱物 / 松原 聡(監修)・宮島 宏(著):フォッサマグナミュージアム発行 [2001, 7]
関東地方の鉱物 / 松原 聡・著:鉱物情報100号記念出版物企画委員会 [1998, 2]
茂倉沢鉱山の近況 / 佐野 悦三 (鉱物同志会会報) [1992]
第52回 鉱物同志会 採集界 案内 (茂倉沢鉱山) [2003, 6]
日本産鉱物種(第5版)/ 松原 聡・著:鉱物情報 [12002, 7]