廃虚と化しているが、ローマの闘技場を思わせる旧選鉱所跡
全盛期を物語る選鉱所跡に残る大煙突(昭和20年完成)
尾去沢鉱山の沿革
尾去沢鉱山の歴史は古く、708年には既に銅が発見され、1700年代には南部藩が稼行していたとされています。明治に入ると、三菱が本格的に開発し、多くの鉱脈が掘削されました。昭和に入ると近代化も進み、隆盛を極めましたが、銅の価格急落のため、昭和53年には、その長い歴史を終えました。現在ではその跡地に『マイランド尾去沢』がマインパークとして建設され、坑道見学や、鉱石資料の展示などがあり、その歴史を保存しています。脈状鉱床で、鉛、亜鉛に富み、特に緑泥石、黄銅鉱に赤鉄鉱を含む鉱石には、金を含む部分があり、『ナルミ鉱』と呼ばれ、この地の特徴的な金鉱タイプとして専門家には知られています。
Copper:自然銅
尾去沢鉱山産の自然銅。鉱山関係者が持っていた、古い標本。 左の標本の接写。結晶集合体であるのが良くわかる。
樹型状の自然銅結晶集合体。
(←57mm→)
(←25mm→)
(右上の最大のもので約15mm)
Sphalerite:閃亜鉛鉱(べっ甲亜鉛)
昭和中期、尾去沢鉱山最盛期に採集された標本。べっ甲亜鉛をメインに、方鉛鉱、黄銅鉱を共なっている。
閃亜鉛鉱(べっ甲亜鉛)上の標本下部の結晶
ブリリアント・カットされた尾去沢鉱山産 べっ甲亜鉛のルース
Sphalerite:閃亜鉛鉱(べっ甲亜鉛)
選鉱場跡から採集した、べっ甲亜鉛の分離結晶。方鉛鉱を共なっている。尾去沢鉱山では、方鉛鉱の借晶をなすデュルレ鉱というものがあり、産出当時はハリス鉱と呼ばれていた。 現在も残されているズリから拾える、低品位の鉱石を割ると、赤鉄鉱、黄銅鉱、閃亜鉛鉱などが観察できる。
(←31mm→)
(←22mm→)
Anglesite:硫酸鉛鉱(コ−ク石を共なう)
縞状の外観が特徴的な、尾去沢タイプと呼ばれる硫酸鉛鉱の標本。ズシリと重い。 方鉛鉱が変質して硫酸鉛鉱になったもの。黄色い皮膜状のコ−ク石を共なう。
(←30mm→)
(←39mm→)
Chalcopyrite:黄銅鉱
鉱山稼業時に産出した標本。やや艶はなくなっているが、黄金色の片鱗を残す、黄銅鉱の結晶標本。
左の標本のズーム写真。結晶面には条線が見られる。
(←42mm→)
(←30mm→)
Pyrite:黄鉄鉱
黄鉄鉱の分離結晶。立方体と12面体の集形となっているため、複雑な晶癖を見せる。結晶面には著しい条線が見られる。
(18mm x 16mm)
Hematite:赤鉄鉱
緑泥石と共に、赤鉄鉱が濃集した鉱石中には金に富む部分があり、通称ナルミ鉱と呼ばれ、尾去沢鉱山、阿仁鉱山では特徴的に見られる金鉱タイプとして知られている。
金鉱は上部の鉱床に多く見られ、特に南北方向の鉱脈は金に富んでいたという事である。ナルミ鉱は元山、田所からの産出が多かったようである。
赤鉄鉱:緑泥石:黄銅鉱を含む鉱石
Hematite:赤鉄鉱
Hematite:赤鉄鉱
緑泥石、黄銅鉱を含む鉱石に赤鉄鉱が濃集している。いわゆるナルミ鉱タイプの鉱石(←59mm→) ズリから採集した鉱石を割ってみると、石英脈中には、雲母鉄鉱タイプの赤鉄鉱が濃集している。(←75mm→)
左の標本のズーム写真。(←35mm→)
その他の産出鉱物
Galena with Sphalerite:方鉛鉱 / 閃亜鉛鉱
赤銅鉱:Cuprite
赤銅鉱:Cuprite
方鉛鉱と閃亜鉛鉱の連結した標本。結晶表面の艶は失われているが、結晶としてはシャープな分離品。(←25mm→) 石英脈の割れ目に生成された赤銅鉱。微小だが、自形結晶も見られる。(←20mm→)
左の標本の結晶部分を20倍の実体顕微鏡下で撮影。
黄銅鉱(結晶):Chalcopyrite
緑泥石 / 黄鉄鉱:Chlorite with Pyrite
緑泥石 / 黄鉄鉱:Chlorite with Pyrite
ズリに散らばっているガサガサした、焼けた石英を割ってみると、空隙には水晶と共に黄銅鉱の自形結晶が観察できる。
緑泥石を中心に黄鉄鉱、黄銅鉱を含んだ脈石(←26mm→)
左の写真の標本全体(↑57mm)
その他、尾去沢鉱山から産出した鉱物は、非常に美しい、菱マンガン鉱、重晶石、ここで発見された硫酸鉛鉱上に生成された二次鉱物、尾去沢石などが知られ、一部はマイランド尾去沢の鉱山資料館で見る事ができます。
参考資料
日本金山誌 第3編(東北)資源・素材学会....1992
秋田県鉱山誌 / 財) 秋田県鉱山会館.....2005
あきた鉱山盛衰記(斎藤 實則)秋田魁新報社....2005.3